言葉遊び。
陽のたまるリビングで君がまどろむ。
僕が驚くほど、いつも幸せそうな君。
ひなたぼっこする猫のように擦り寄って甘える君の頭を撫でる午後。
僕はこんな日常が永遠に続くように錯覚していた。
「ねえねえ」と君が言った。
「私のこと好き?」
僕は答えた。
「好きだよ」
他愛もない言葉遊び。
そこに含まれる真実の重さを知らずに、僕は口先だけで答えていた。
陽がかげって部屋が不気味な青に包まれる。
僕の傍にいる君。
少し変わった。
昔のように笑っている。
話している。
可愛い言葉遊びをしかけてくる。
でも、雰囲気が希薄になってしまった。
空気のように傍にいる君。
君が少し、こわい。
「ねえねえ」と君が言った。
「幸せ?」
僕は答えた。
「幸せだよ」
二人分の言葉が虚ろにこだます。
この部屋は、こんなに広かっただろうか。
白い部屋に入っていく。
君を包む白に埋もれる。
もう僕に擦り寄ることも出来なくなってしまった君の頭を撫でる。
強い薬で半分も意識がないはずの君は、僕の手の温かさに軽く微笑む。
よく喋っていた君の唇が開く回数が極端に減った。
僕はいまになって、君の言葉に隠された気持ちがわかるようになった。
「ねえねえ」と君が言った。
「私と死んで」
僕は答えた。
「それはできない」
答えを聞いた君の表情から逃れるように、キスをする。
乾いて荒れた唇が、僕を静かになじっていた。
最期まで卑怯だった僕。
「ねえねえ」と彼女が言う。
遠い日のひだまりの部屋。
ソファに座った僕の前に立つ君。
白いワンピースが風に揺れる。
「私と一緒にきて」
僕は答える。
「一緒に行くよ」
その日、僕は明日へと消えた。
By.南霞
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